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世界的な不確実性がもたらす混乱は、弁護士の動向にも影響を与え、アジア各地の弁護士が、新天地でキャリアを切り拓くことを検討しています。Freny Patelがこうした動向の背景にある理由を探ります。

シンガポール弁護士会(Singapore Law Society)の会長であるエイドリアン・タン氏は、2022年初めに行った「大退職時代」に警鐘を鳴らすスピーチで、シンガポールの法曹界における高い離職率を嘆き、これを是正しなければ人材流出に直面すると、他のアジア諸国に対して警告しました。

意外にも、パンデミックが原因ではありませんでした。むしろ最大の問題は、2020年以前から弁護士たちが訴えていたことですが、極度の疲労でした。

「電子メールやインスタントメッセージの登場によって、昔の世代に比べ、若い弁護士は、はるかに厳しい状況で仕事をしなければならなくなりました」とタン氏は警告し、精神的ストレスを深刻な懸念材料として強調しました。

その後、最近になって、インドの最高裁判所長官であるDhananjaya Yashwant Chandrachud氏は、若手弁護士はまるで奴隷労働者のように働いているとし、タン氏と同じ懸念を示しました。同氏は、インド弁護士会の会合で、若手弁護士が過労と低賃金にあえいでいると訴え、法曹界の幹部に対し、一定水準の給与を支払うよう促しました。

パンデミックは、「大退職時代」として知られるこうした傾向に拍車をかけたというわけではありませんが、確実に事態をさらに悪化させ、多くの弁護士を、業務手順、役割、業務分野、あるいはキャリア全般までも見直さざるを得ない状況に追い込みました。

こうした動向と平行して、各地域の法律事務所が優秀な人材を維持したいのであれば、賃金の引き上げと労働条件の改善が急務であると専門家は指摘しています。 最近、個人の法律事務所を辞めたある弁護士は、離職率とリーダーがチームメンバーに接する際に示す共感との間には直接的な相関関係がある、と述べています。

Asia Business Law Journal』が取材した多くの弁護士や弁護士人材紹介会社は、このことに同意しています。法曹界における弁護士の転職には、さまざまな理由があります。「ガラスの天井」にぶつかる、ワークライフバランスを改善したい、請求額目標を達成する自信がない、一般企業でもっと有意義な役割を果たしたい、といったことは、新世代の弁護士が必ずしも一つの事務所に長期間在籍するわけではない理由のほんの一部にすぎません。

ソウルのBae Kim & LeeのパートナーであるHan Ri Bong氏は、「昔は一つの法律事務所に何十年も在籍して、パートナーになるのが普通でしたが、若い世代の弁護士たちは、昔とは異なる見方をしています」と語ります。

同氏によると、韓国の法曹界は、市場が小さかった30年前とは異なり、司法試験の年間合格者も当時のわずか約300人から、現在では数千人に増加しています。

Wolters Kluwer社が行った2022年「Future Ready Lawyer Survey(将来に備える弁護士調査)」では、ほとんどの企業は従業員の期待に応えていないとする意見を支持し、社内弁護士の70%が来年には現在の職を離れる可能性があると警告しています。

パンデミックのさなかには、シンガポール市場でも、多くの中堅アソシエイトが離職しました。「中堅シニアアソシエイトが離職したことで、パートナーと直接やり取りをしなければならなくなった若手弁護士に、大きな負担がかかっています」と、世界的な人材紹介企業であるEthos BeathChapmanで、シンガポールのエグゼクティブ・ディレクターを務めるLinus Choo氏は述べています。

しかし、時間に追われるパートナーは、若手弁護士に対して必要な指導やサポートを行い、支えることができませんでした。同氏は『Asia Business Law Journal』に次のように語っています。「個人の法律事務所の場合、特に仲裁や訴訟、企業間取引などの場合は、常に期限に追われています。人材が減る中、期待に応えるためにはこうした時間的なプレッシャーに晒されるため、若手の業務をサポートする時間がほとんどなく、交流も減っています」

パンデミックによって状況が一変し、弁護士の多くは、労働条件の見直しと再評価を余儀なくされ、アジア全域の法律事務所は、高い離職率に対処するための取り組みを行っています。

ムンバイを拠点とするKhaitan & CoのシニアパートナーであるRabindra Jhunjhunwala氏は次のように指摘しています。「柔軟な働き方を認めなかった組織では、弁護士が別の法律事務所に移籍しました。絶望的な状態に陥ると、危機に対処する戦略が明確になりますが、柔軟性をもたせることは、人材をつなぎ止めておくための戦略です。柔軟に対応すれば、リモートワークを継続することができます」

柔軟な働き方が増え、直接対面する機会が減ったことで、弁護士と法律事務所との間の精神的なつながりが以前ほど強くなくなり、従業員が転職する傾向が強くなった、とマレーシアにあるTrowers & HamlinsのパートナーであるGeoff Allen氏は指摘します。

恐らく想像には難くありませんが、訴訟や仲裁のチームは、他の業務分野よりも安定しています、とEthos BeathChapmanの香港法律実務の責任者を務めるBrian Chan氏は述べています。こうしたチームでは、メンバーの入れ替わりはあまり多くありませんでした。それは法律事務所においてもそうでした。なぜなら、「紛争解決に携わる弁護士は、法廷や仲裁手続きに出席しなければならず、裁判が終わるまでに1~2年かかる可能性があるからです」。

一方、取引業務は、資本市場の状況に大きく左右されます。市場が好調であれば、株式や債券市場の弁護士に対して多くの需要があります、とChan氏は述べています。市場が縮小すれば、こうした弁護士に対する需要が減少します。こうした状況を反映し、法律事務所における資本市場の弁護士チームの年間離職率が30%~40%であるのに対し、香港の紛争解決チームの年間離職率は20%未満です、と同氏は指摘しています。

同時に、ほとんどのアジア市場では、データプライバシーや、テクノロジー・メディア・通信(TMT)に携わる弁護士に対して高い需要があります。「パンデミックに端を発し、eコマースやフィンテックが活況を呈し、クライアントが、特に規制関連の急速な変化を考慮し、こうした分野での助言を求めているため、この分野を扱う弁護士に対する需要が高まっています」とChan氏は述べています。同氏はまた、ほとんどの法律事務所がハイブリッド型勤務形態を採用しない限り、離職は続くと予想しています。

マニラを拠点に活躍するQuisumbing TorresのパートナーであるAlain Charles Veloso氏も、離職は今後も続くと予想しており、企業法務や取引に携わる弁護士は企業へ転職すると考えています。Veloso氏によると、フィリピンでは多くの弁護士が、進学、政府機関や企業への転職、自身の法律事務所や事業の立ち上げなど、その他の活動に従事するために退職しています。「こうした状況の背景には、弁護士が長時間労働によるストレスや大きなプレッシャーがかかる職場環境を敬遠し、ワークライフバランスの改善を求めるようになったという傾向があります」

シンガポールにおける弁護士の過労

昨年、弁護士が退職した理由は、コロナによって仕事関連の極度の疲労が蓄積したからであろう、とEthos BeathChapmanのChoo氏は指摘します。若手弁護士に長時間労働の大きな負担がのしかかったため、多くが退職し、社内弁護士へと転職するか、あるいは弁護士業務から完全に離れることを余儀なくされました。

Choo氏は、特に仲裁や訴訟、企業間取引の場合、法律事務所では、期限に対するプレッシャーは大変大きい、と語ります。さらに、シンガポールの弁護士の数も、毎年着実に減少しており、弁護士には以前より多くの選択肢がある、と同氏は指摘し、次のように述べています。「法律とは無関係の多くの相談役についても、法律的な訓練を受けた専門家が好まれる傾向が強くなっています」

離職する弁護士の数に対して、シンガポールでは毎年400〜500人が新たに弁護士として採用されています。

「もし、現役弁護士の30%が離職するとすれば、その差を埋めるなんらかの解決策を見いださない限り、長期的に見れば業務を行う弁護士の数が事実上減少することになります」と、Choo氏は述べました。

同時に、シンガポールでは、多くの新しい法律事務所を誘致しています。昨年シンガポールに初の海外事務所を開設したインドの法律事務所、Cyril Armachand Mangaldasもその一つです。スペインの法律事務所であるPérez-Llorcaも、2023年初めにシンガポール事務所を開設するという計画を発表しました。

「シンガポールは、アジア太平洋地域における当事務所の戦略を立てるには最高の場所です」と語るのは、近々、Pérez-Llorcaのパートナーに昇格し、シンガポールでの運営を統括するシニアアソシエイトのPablo Hontoria氏です。同事務所はすでニューヨークとロンドンに進出していますが、同氏は、シンガポールをこれら2都市と並ぶ世界三大金融都市の一つと見なしています。

シンガポールは、中国、日本、オーストラリア、韓国、マレーシア、インドネシア、インド、フィリピン、ベトナムなど、アジア太平洋地域の他の国々に進出する「最高の拠点」である、と同氏は述べます。

香港の拠点

これまで、国際的な法律事務所の大半が、アジアでの地位を確立するための拠点として、香港を選んできました。しかし、法律事務所が地域レベルで多様化し、シンガポールに事務所を開設しているため、香港からシンガポールへの弁護士の移動もいくらかあり、市場は変化している、とChan氏は説明します。「中国やシンガポール、あるいは欧州でさえ、帰国する弁護士が一部いるため、弁護士が双方向に移動しています」と同氏は付け加えました。

弁護士専門の人材紹介会社であるLewis Sandersの香港在住ディレクターであるChristopher Chu氏は、過去2年間に香港から本国に帰国したり、また香港から海外に移住したりする弁護士が増加した、という意見に同意しています。香港では、アソシエイトの離職が、法律事務所にとって大きな懸念材料となるほど重大な問題とはなっていませんが、「香港におけるコロナ関連の規制により、弁護士志望者は他の市場での任務を検討しています」と同氏は指摘します。

また、同氏は次のようにも述べています。「海外と違って、この地域の法曹界では『大退職時代』の兆候は見られません。むしろ、香港や海外の一般市場の不確実性を考慮すれば、アソシエイトは転職する特別な理由がない限り、現在の地位にとどまる傾向が高いと思われます」

Chu氏によると、アソシエイトの離職理由は、これまでと変わらず、ブランド力強化の模索、他の業務分野での再教育、明確な将来性、パートナーへのスピード昇進、ワークライフバランスの向上、企業への転職の機会などです。お金が唯一の動機であるとすれば、大幅な賃金アップが提案された場合のみ応じるでしょう、と同氏は付け加えました。

一方、米国の法律事務所は、クラバス基準(Cravath scale:ロースクール卒業後の年数に応じた横並びのアソシエイト報酬制度)に基づく給与を提供することで、「マジックサークル(英国5大法律事務所)」や香港にあるその他の国際的な法律事務所から、経験豊富なアソシエイトを引き抜くことが多い、とEthos BeathChapmanのChan氏は述べています。

「米国の法律事務所は、大半の国際的な法律事務所に比べて給与水準が高いため、米国の法律事務所の存在が、離職率を高める原因となっている場合が多いでしょう」と同氏は指摘します。そして、給与水準は、シンガポールや中国よりも、香港のほうが高いとも付け加えました。これまで、シンガポールや中国などアジアの他の地域の弁護士に支払われていた現地の給与は、香港の給与の20%から40%でしたが、中国やシンガポールでの給与が上がっているため、格差は縮まりつつあると同氏は言います。

パンデミックや社会不安が生じる以前に、米国や英国の法律事務所の一部が撤退したことも、ここ数年間、香港で離職率が上昇した要因となっています。米国の法律事務所、Baker Bottsは、昨年、香港事務所を閉鎖しました。

しかし、中華人民共和国(PRC)の法律事務所が香港に進出したため、雇用が大幅に増加しました。現在、「レッドサークル」と呼ばれる中国8大法律事務所のうち、Global Law Office(環球法律事務所)を除く7つの事務所が香港に進出しています。

法律事務所が導入しているアジャイル・ワーキング・ポリシーによって、弁護士はリモートワークが可能になりましたが、これが香港における高い離職率の一因にもなっています。テクノロジーの進歩に伴い、法律事務所は、弁護士が香港で働こうと、シンガポールで働こうと、それほど気にしなくなりました。国際仲裁の多くがバーチャルで行われているため、こうした傾向は、特に仲裁などの業務分野に当てはまります。現実に対面することは、M&AやTMTなどのように複数の法域にまたがる業務においてほど、重要ではありません。

中国の苦悩

2021年の中国の法律市場では、資本市場の多くの弁護士が、国際的な法律事務所から別の法律事務所に移籍するなど、激しい人材獲得競争が繰り広げられました。しかし、「寅年」である2022年は、ロックダウンとそれに伴う資本市場の低迷が主な原因となり、採用が大きな打撃を受けたため、あまり良い年とは言えませんでした。

国境規制や米中間の国境を越えた緊張の影響を受け、資本市場やクロスボーダーM&A活動が停滞したことによって、相当数の法律事務所が、取引に関わる弁護士をはじめ、チームの規模縮小を図った、と上海のEthos BeathChapmanで中国法務の責任者を務めるWinnie Wei氏は指摘しています。

国内の法律事務所の中には、新規採用を見送るだけでなく、アソシエイトに社内弁護士の職を探すよう呼びかけた事務所もありました。また、国際的な法律事務所の状況も同様です。「コロナの蔓延によりロックダウンが3カ月間続き、香港でのIPO(新規上場株式)もあまり多くないため、多国籍企業による採用は打撃を受けました」とWei氏は言います。[ihc-hide-content ihc_mb_type=”show” ihc_mb_who=”3″ ihc_mb_template=”2″ ]

国際的な法律事務所では、現地で法律サービスを提供するために中国人弁護士を雇うことができないため、Allen & Overy、Herbert Smith Freehills、Norton Roseなどの多くの法律事務所は中国の法律事務所との提携や共同事務所の設立を選択しました。

国際的な法律事務所が規模を縮小する中、Davis Wright Tremaine、Bryan Cave Leighton Paisner、Troutman Sandersなどの法律事務所は、中国から撤退しました。

法律専門のニュースサイトであるLaw.com Internationalによると、国際的な法律事務所から少なくとも36人の上級弁護士が、地元の法律事務所に引き抜かれました。

Wei氏によると、雇用、訴訟、コンプライアンス調査、知的財産、家族の財産管理などの一部の業務では、引き続き積極的に採用が行われています。

最近の規制強化や中国の個人情報保護法の導入も、多くの中国および国際的な法律事務所が、ライフサイエンスの多国籍企業の大半が拠点を置く上海をはじめ、中国の多くの国際的企業の調査や訴訟を対象としたデータプライバシーやコンプライアンス分野の有能な人材の確保と、ビジネスの拡大を推進するきっかけとなった、とWei氏は述べています。

国際的な法律事務所が手痛い損失を被っただけではありません。昨年の規制改革により、4大監査法人(PwC、Ernst & Young、KPMG、Deloitte)も、法的な提携関係を停止せざるを得なくなりました。その結果、中国の大手法律事務所に移籍するパートナーもいれば、社内弁護士に転職するパートナーもいた、とWei氏は言います。

インドの深刻な状況

こうした深刻な状況はインドでも同様です。インドの法律事務所では、長時間労働や報酬の低さなどさまざまな理由から、前例にないほど、上級、中堅、若手の弁護士の離職が続いています。

Luthra and Luthraでは7月に多くの弁護士が一斉に退職し、シニアパートナーのHS Bobby ChandhokeとSudhir Sharmaが63人の弁護士とともにDSK Legalに移籍しました。突然の相次ぐ退職に、同事務所は危機的状況に陥ったと、同事務所の創業者兼マネージングパートナーであるRajiv Luthra氏は以前、『India Business Law Journal』に語りました。

この大退職は、「大転職」と呼ぶ方がふさわしいですが、この影響によって混乱と大損害を被る可能性があります。

Jhunjhunwala氏は、Khaitan & Coでも何名か離職しましたと述べ、次のように付け加えました。「当事務所の離職率は、市場よりも低いです」。それは、人を大事にする法律事務所だからです、と同氏は説明します。「コロナが発生する前から、当事務所では、人材が最も重要であり、思いやりを持って接することの必要性や、方針に柔軟性を盛り込む必要性も分かっていました」

社内弁護士への転職

法律事務所に在籍する多くの弁護士は、社内弁護士への転職の機会を真剣に検討していると言います。社内弁護士の場合、ワークライフバランスが充実し、仕事量が多くない上に、確実で安定しており、特に大手テクノロジー、暗号通貨、ゲーム業界などでは魅力的なパッケージが提供されている場合もあるためです。
コロナ前は、中国の若手弁護士が積極的に社内弁護士の職を探すことはなく、取引業務に重点を置いた個人事務所に在籍することを好んだ、とWei氏は述べています。パンデミック後は、政情不安や経済的な理由から、社内弁護士の職を探す若手弁護士の数が増えています。

ニューデリーにあるObhan & AssociatesのシニアパートナーであるAshima Obhan氏は、社内弁護士は、プライベートな時間へのしわ寄せが減るだろうと考える弁護士には、好意的に受け止められている、と述べています。また、ビジネスチームの一員となることで、専門的な能力を育成することもできます。

パンデミック後の業界全体の機会を考慮した上で、シンガポールでは、個人事務所を辞め、社内弁護士に転職する中堅のアソシエイトの割合が高くなっている、とChoo氏は述べています。

法務チームの拡充を図る企業が増えているため、社内弁護士の役割に対して「ここ数年は、以前より敬意が払われるようになりました」と、ソウルでYoon & Yang(法務法人和友)のパートナーを務めるEdward Dhong氏は述べています。「多くのスタートアップでは、優秀な人材を誘致するためにストックオプションを提供しており、法律事務所に残ってパートナーへの昇進を待つのに比べると、金銭的な面ではるかにメリットが大きいのです」

Lewis SandersのChu氏も、ここ数年で、多くのアソシエイトが、パートナーシップを長期的に見れば「実現不可能あるいは維持不可能である」と見なしていると述べ、同意しています。社内弁護士としてのキャリアは、明らかに一つの選択肢です、と同氏は語ります。

社内弁護士への転職理由はさまざまであり、これもその1つにすぎません。一般的には、報酬請求目標額や事業開発業務から免れることができ、ワークライフバランスが比較的良く、業務においてより密接に連携する機会があるなど、社内弁護士を魅力的な選択肢と考える弁護士志望者もいます。

ムンバイにあるアディティア・ビルラ・グループ(Aditya Birla Group)の元グループ法務顧問であり最高法務責任者であったAshok K Gupta氏もこれに同意しています。弁護士には、クライアントの数を増やすというプレッシャーがありますが、インドの法律事務所の数を考えると、それは必ずしも容易なことではない、と同氏は語ります。「法律業務を好んで行っている弁護士のすべてが、このような類のマーケティングに向いているとは限りません」。一方で、経営の一端を担う社内弁護士には、そのようなプレッシャーはありません。

しかし、欧州や米国の多くの大企業では、資格を持つ弁護士が管理職の階段を上り、会長やCEOに就任していますが、「インドではそのような状況はあてはまりません」

個人事務所に勤めていた弁護士が、社内弁護士に転職すると、ほぼそのまま戻ってこなかった以前の状況とは違い、香港では現在、人材が双方向に移動しています、とChan氏は説明し、個人事務所で人材が不足しているTMT、データプライバシー、労働法などを引き合いに出しました。

しかし、紛争解決に携わる弁護士は、一般的に社内勤務の立場で提訴することができないため、社内弁護士に転職する機会が少なく、事務所内で成長できる可能性があると判断すると、多くは同じ事務所に長く在籍します。

一方、取引に携わる弁護士は、業務の性質やスキルセットが同じであるため、社内弁護士としてのチャンスをより簡単に見つけることができ、社内弁護士と個人の法律事務所との間での転職も多い、とChan氏は説明します。「弁護士は、社内勤務で豊富な経験を積み、それが高く評価されているため、そうしたスキルセットをさまざまな分野で活かすことができます」

社内弁護士への転職は、転職先の企業がクライアントとなる可能性があるため、法律事務所にも利益となる可能性がある、とDhong氏は述べます。同様に、法律事務所へ移る社内弁護士は、他の企業クライアントへのアドバイスの際に、これまで企業で得た経験を生かすことができます。

法律事務所のパートナーか、法律顧問であるかを問わず、弁護士はビジネスアドバイザーであることに変わりはない、とAllen氏は言います。「どちら側にいるかによって状況は異なりますが、私は、自分の経験を生かして、ビジネスに対して法律や商業の観点から、有効で実務的なアドバイスを提供しています」とも語りました。

人材の確保

シンガポール弁護士会のタン氏は、優秀な人材の保持が目的であるならば、法律専門家は新しい世代の若手弁護士のために新しい労働環境を導入し、「バーチャル法律事務所」の普及に向けた準備を進める必要がある、と提言しています。

私たちはパンデミックによって、宣誓供述書はオンラインで依頼でき、裁判の申請、上訴、裁判はバーチャルで実施でき、何千kmも離れたところからでも証人の反対尋問ができることを学びました、と同氏は語ります。

従って、弁護士会は、政府の支援を受け、中小規模の法律事務所が、デジタル知識や能力を身に付け、業務の革新や変革を進めることを手助けするプログラムを開始しました。従来の法律事務所とバーチャル法律事務所は、給与面だけでなく、ハイブリッド型勤務形態や多様なキャリアパスが導入されているかによって、人材獲得競争を繰り広げる可能性が高い、と同氏は述べています。

Choo氏も、法律事務所がテクノロジーに投資することに賛同しています。同氏は、特定の法律業務に関しては、アソシエイトへのプレッシャーを軽減するために、AI(人工知能)を活用することができると述べ、アルゴリズムを利用した調査やデューデリジェンス報告書の原案に言及しました。ワークライフバランスはさておき、法律事務所では、特に在宅勤務環境の場合、チームの絆を深めるための時間を定期的に確保するべきだ、とも述べました。

Obhan氏は、法律事務所は、ハイブリッド型勤務モデルを導入し、個々のニーズに配慮し、スタッフの精神的な幸福度を高める必要がある、とアドバイスしています。

今日、弁護士には多くの選択肢があります。アソシエイトが高く評価されていると感じることが重要だと、Choo氏は述べています。「私は人を動かす業務を行っていますが、スタッフには長く職場にとどまってもらいたいと思っています。疲れ果てて、別の法律事務所に移籍したとしても、問題は解決しないでしょう」[/ihc-hide-content]

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