過去数十年において、台湾のシンジケートローン市場ではプロジェクトファイナンスはほとんど見られませんでした。プロジェクトファイナンス取引の大半は民間によるインフラ案件、または官民連携(PPP)を通じたもので、その代表例が、2000年に実施され、大きな注目を集めた台湾高速鉄道(THSR)の3233億ニュー台湾ドル(100億米ドル)のマルチトランシェ型シンジケートローンです。
これまでで島内最大だったこのプロジェクトファイナンス取引の他にも、廃棄物焼却施設や発電所に関する取引が行われました。
しかし、台湾のプロジェクトファイナンス市場は、政府の「非核家園」という政策目標に後押しされ、2016年以降に大きな変化を遂げました。この取り組みでは、原子力エネルギーを再生可能エネルギーに置き換えることが計画されており、代替エネルギー源への需要を刺激しています。
固定価格買取制度が台湾の再生可能エネルギーを促進

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再生可能エネルギーへの投資を加速するため、台湾法は「固定価格買取制度(feed-in tariff)」という政策メカニズムも設けられています。これは政府が台湾電力公司(Taiwan Power Company)に対して、再生可能エネルギー事業者が発電した電力を固定価格で購入することを求めるというものです。
その結果、主に洋上風力・太陽光エネルギープロジェクトを中心に、活発なグリーンエネルギー開発が進行しており、近年、プロジェクトファイナンスが注目を集めています。
進行中の太陽光プロジェクト、陸上・洋上の風力発電所プロジェクト、BESS(バッテリーエネルギー貯蔵システム)プロジェクトの中でも、画期的な案件だったのが、台湾初の洋上風力発電所であるフォルモサ1洋上風力発電プロジェクト(F1)であり、2018年に無事ファイナンシャル・クローズを迎えました。
その後、既にファイナンシャル・クローズを達成した10カ所の洋上風力発電所や、2027年までにファイナンシャル・クローズを迎える予定のパイプライン上の案件など、節目となるプロジェクトが続きました。
さらに、太陽光発電所は、政府が最終的に再生可能電力の約70%を担うことを目標としている主要なグリーンエネルギー源であることから、地上設置型太陽光発電所、屋根設置型太陽光発電所、フローティング型太陽光発電所、アクア・ソーラー・ハイブリッド発電所を含め、太陽光発電についてもプロジェクトファイナンスが活況を呈しています。
洋上風力発電所や太陽光プロジェクトに積極的に関与している法律事務所として、筆者の所属する事務所は、スポンサーや借入人だけでなく、貸し手に対しても、台湾法に関する法律顧問を務めています。
その業務には、事業再編、対内投資、政府の許認可、デュー・ディリジェンス、ファイナンスストラクチャー、外国為替、ヘッジ、ならびに現地法に基づく担保権設定、関連するプロジェクト書類およびファイナンス書類のレビューなどが含まれます。当事務所はまた、陸上/洋上風力発電所や太陽光プロジェクトの建設期間・運転期間におけるスポンサーの持分売却も支援しています。
以下に述べる筆者の視点によるプロジェクトファイナンスに関する考察および提言は、ここ数年のプロジェクトファイナンス市場での実務経験に基づいています。
台湾の再生可能エネルギーファイナンスに参入する地元銀行
大手銀行は、台湾でのグリーンエネルギープロジェクトの資金調達に積極的です。これまでのところ、プロジェクトファイナンスの多くは、日本の大手銀行であるみずほ銀行、三井住友銀行(SMBC)、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)、フランスのCredit Agricole Corporate and Investment Bank(CACIB)やシンガポールのDBS Bankなどの外資系銀行(ただしこれらに限られない)により、台北支店などを通じて組成または資金提供されてきました。
それらのプロジェクトファイナンス取引のほぼすべては、国際的な金融アドバイザーや銀行によって主導され、それらの取引では国際的な規範や実務慣行が採用されていました。
他方で、台湾の地元銀行は、プロジェクトファイナンス市場にはほとんど参入していませんでした。これは、プロジェクトファイナンスがノンリコースまたは限定リコースという特徴を有し、台湾の銀行のリスク回避的な考え方に反するリスクを伴うためです。
商業銀行のビジネスモデルを採用し、借入人とそのスポンサーの信用力に大きく依存することに慣れていることから、台湾の銀行の多くはプロジェクトファイナンスに積極的には参加しません。一般に、なじみのないプロジェクトへの参加に消極的で、政府系銀行は大規模プロジェクトへの資金供給についてさらに保守的です。
しかし、筆者の経験によれば、台湾最大の民間銀行である中国信託商業銀行(CTBC Bank)をはじめ、台北富邦銀行(Taipei Fubon Bank)、国泰世華銀行(Cathay United Bank)、玉山銀行(E.SUN Bank)、永豊銀行(SinoPac Bank)などの地元の大手銀行は、最近では、再生可能エネルギーに関するプロジェクトファイナンスに積極的に参加するようになっています。
最近の事例では、これらの銀行がデベロッパーの金融アドバイザーを務めたことさえあります。さらに、政府系銀行も、公的信用保証制度の下で、この3年間で徐々にプロジェクトファイナンスに参加し始めています。
銀行以外にも、台湾でプロジェクトファイナンスに参加する保険会社やグローバル機関投資家が増加しています。例えば、ある洋上風力発電所プロジェクトでは、2020年に、グローバル機関投資家や台湾のプライベートエクイティファンドから成るコンソーシアムが合計50%の持分を取得する契約を締結したと発表しました。
保険会社は投資家として参加することができ、また、洋上風力プロジェクトファイナンスにおいて貸し手を務める例もあります。
コーポレートPPAが台湾を変える

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台湾政府は固定価格買取制度の仕組みを提供しています。しかし、クリーンエネルギー需要の国際的な潮流や、国際的な顧客から台湾の製造業者に対するグリーン電力使用の要求を背景に、より多くの発電事業者が、台湾電力公司に売電するのではなく、コーポレートPPA(企業向け電力購入契約)を通じて企業に直接電力を販売するようになっています。
最も注目すべき事例は、世界最大のコーポレートPPAにおいて、ある洋上風力発電所が発電する電力の全量を台湾積体電路製造(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company)に販売している案件でです。
最近では、複数のコーポレートPPAを採用する洋上風力プロジェクトも見られます。これは、新しいモデルの確立を示すものでもあります。
また、プロジェクトファイナンスにおける電力購入者に求められる信用格付要件を満たせない企業がグリーン電力を確保できるよう、政府は政府系企業を通じて、発電事業者と電力購入者の橋渡し役となる電力販売プラットフォームとして機能する会社の設立にも着手しました。
コーポレートPPAで定められる電力単価は、台湾電力公司とのPPA(電力購入契約)に基づく買取価格より高いことから、コーポレートPPAの活用は、台湾におけるグリーンエネルギーのプロジェクトファイナンスの次の段階における鍵となります。
台湾のエネルギープロジェクトがリファイナンス局面へ
台湾のエネルギープロジェクトにおけるプロジェクトファイナンスは、おおむね2018年頃から発展し始めました。その後、約8年を経て、相当数のプロジェクトが建設段階を完了し、商業運転に入ってから一定期間が経過しています。
運転が安定したことで、これらのプロジェクトの多くは、より有利な融資条件を確保するために、リファイナンスを計画しているか、またはその手続を進めています(すでにリファイナンスを完了している案件もあります)。
また、一部のスポンサーは、金融機関との間で負債資本比率の引き上げに向けた交渉を進めています。これにより、株主はプロジェクトへの初期投資の一部を、より早い段階で回収できるようになります。
データセンター向けファイナンスが台湾で拡大
近年、台湾のプロジェクトファイナンスは、主としてグリーンエネルギー関連の資金調達に用いられてきました。しかし、この3年間で台湾におけるデータセンター建設が進み、関連する資金調達の需要も増加しています。これにより、台湾のプロジェクトファイナンス市場の発展における新たな分野が生まれています。
現在のデータセンター案件のファイナンス組成は、純粋なプロジェクトファイナンス方式を全面的に採用しているわけではありません。それでも、基本的にはプロジェクトファイナンスに基づいています。
これを踏まえると、今後数年でデータセンター向けファイナンスは大きく発展すると見込まれます。その過程で、この分野に特化した、より体系化されたプロジェクトファイナンス方式が生まれ、徐々に確立されていく可能性があります。一方、台湾北部では、電力供給の制約がデータセンター建設のペースや規模に悪影響を及ぼし得ることが懸念されています。
台湾のプロジェクトファイナンスの成長は続く
過去10年間、台湾のプロジェクトファイナンス市場はグリーンエネルギー案件の資金調達需要を背景に、急速に成長してきました。
グリーンエネルギー需要が引き続き見込まれることに加え、政府がデータセンター建設への投資も促進していることから、台湾のプロジェクトファイナンス市場は成長基調を維持すると予想されます。さらに、新たな資金調達分野にまで拡大する可能性もあるでしょう。
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