世界最大級のテクノロジー企業のゼネラル・カウンセルであるために必要なものとは何でしょうか。Sylvia Fang氏がSheryl Ubanaに、TSMCの成功が中核となる価値観を決して見失わないことから始まる理由を語りました。
2026年5月、台湾は世界で5番目に大きい株式市場となり、AIインフラへの需要が半導体株を押し上げ続けるなか、台湾積体電路製造(TSMC)が上昇を主導しました。
TSMCの株価は今年、50%近く上昇しました。同社は台湾の主要株価指数のおよそ42%を占めるまで成長し、台湾のローカル市場と世界のテクノロジー産業の双方に対する同社の圧倒的影響力を浮き彫りにしました。
TSMCが、新興のチップメーカーから世界で最も影響力のあるテクノロジー企業のひとつへ成長するのに合わせるように、同社の上級副社長兼ゼネラル・カウンセルであるSylvia Fang 氏も、同社とともに歩んできました。
Fang 氏が1995年に若手マネージャーとしてTSMCに入社した当時、同社の年間売上高は10億ドル未満に過ぎませんでした。それから30年後、TSMCは年間売上高が1220億ドル超となり、世界で500社超の顧客にサービスを提供し、世界有数の半導体企業となりました。
しかしFang 氏にとって、TSMCの成功は時価総額や技術的リーダーシップだけで定義されるものではありません。成長の過程を通じて一貫して保たれてきた企業文化に根差しています。
「私はTSMCに約31年間在籍し、今日に至るまでの歩みを見てきました」とFang 氏は語ります。「TSMCには広く知られたコア・バリューがあります。それはICIC、「誠実性(Integrity)」、「コミットメント(Commitment)」、「イノベーション(Innovation)」、「顧客からの信頼(Customer trust)」です。
「私たちはコミットメントを軽く扱いません。ひとたび約束したら、その約束を果たすために全力を尽くします」
Fang氏にとって、これらの原則は単なる企業スローガンではありません。世界で最も重要なテクノロジー企業の一つのかじ取りを支えるで上で伴う、複雑な法務、商務、地政学上の課題に向き合う際に、彼女が立ち返る指針となっています。
創成期
TSMCは1987年、エンジニアのMorris Chang氏によって設立され、後にピュアプレイ・ファウンドリー・モデルとして知られることになる方式、すなわち自社でチップ設計を行うのではなく、顧客向けに半導体を専業で製造する方式を先駆けて確立しました。
このモデルはやがて世界の半導体産業を再構築し、TSMCを世界の主要テクノロジー企業の背後にいる製造パートナーとして位置づけました。Fang氏が入社した頃、法務部門もまた、その事業段階を反映していました。
「私が30年前に入社したとき、法務機能の主要な要素は、主として商取引契約の交渉、一般的な企業法務に関する助言、そして場合によっては知的財産(IP)紛争でした」とFangは氏は言います。
同社が世界の顧客基盤を拡大し、台湾の外にも事業拠点を構築するにつれて、法務の責任範囲も並行して拡大しました。コーポレート・ガバナンスはより高度な対応を要するようになり、IP紛争は増え、急速に世界的テクノロジー・リーダーへと変貌する事業を支えるために新たな法務専門領域が生まれました。
「法務部門の範囲は、事業の成長と台湾内外での拡大に伴い、長年にわたって広がり続けました」と彼女は語ります。
舞台が大きくなれば、賭け金も大きくなる
TSMCの存在感が増すにつれ、事業を取り巻く法的な複雑性も増していきました。
1997年のニューヨーク証券取引所への上場は初期の転機となり、規制当局の監視強化と、より厳格なコーポレート・ガバナンスおよび開示・報告基準をもたらしました。
10年後には、地政学的緊張と貿易紛争が、新たな法的複雑性を加えました。
「半導体は、世界の超大国にとって国家安全保障と経済の最優先事項へと変化しました。そしてこの状況のなかで、最先端の集積回路(IC)製造技術を持つ世界最大の半導体ファウンドリーであるTSMCは、注目の的になりました」とFangは語ります。
「以前の私たちはかなり控えめでしたが、今は見られることを余儀なくされています。さまざまな地域の政府からの期待や要請に対応し、増え続ける輸出管理規制の複雑性などに対処する必要があります」
Fang氏にとって、これらの課題への対応は、世界的テクノロジー・リーダーにふさわしい法務機能を構築することを意味しました。彼女は、従来の企業法務の役割を超えて部門を拡張し、IP、コンプライアンス、商取引、営業秘密保護を担当する専門チームを設けました。
TSMCの国際的なプレゼンスが拡大するにつれ、彼女は米国に政府渉外チームを設置し、さらに主要市場で地域法務部門を整備しました。各地域の法務責任者は、それぞれの管轄で政府と関与する追加の責任も担うようになりました。
「政府とのコミュニケーションに対応するため、まず米国で政府渉外部門を立ち上げる必要がありました。これが、過去数十年にわたって法務機能の範囲がどのように進化してきたかを示しています」
巨人を守る
Fang氏にとって、IPを守ることは特許出願よりもかなり前から始まります。「TSMCのような企業は毎年、研究開発(R&D)に莫大な資金を投じており、営業秘密はR&D投資の成果です。営業秘密が競合に流出すれば、競合は何年にも及ぶ高額なR&Dを飛び越えることができてしまいます」
TSMCが製造拠点を国際的に拡大するにつれ、そうした資産の保護はますます複雑になりました。複数の法域で事業を行うことにより、新たな訴訟リスクにさらされる一方、より広範な特許戦略や各国で異なる雇用法制が、機密ノウハウを守る取り組みを難しくしました。
「複数国に物理的な製造拠点を持つと、現地裁判所の管轄が及びます。競合やパテント・トロールは、以前より容易にフォーラム・ショッピングを行えます」とFang氏は語ります。
彼女によれば、台湾では一定の条件の下で従業員との競業避止契約が認められている一方、米国の多くの州では認められておらず、クロスボーダーの営業秘密保護をより難しくしているといいます。
これらの防御を強化するため、Fang氏はIP保護を法務機能の構造そのものに組み込みました。IPと営業秘密保護を担当する専任チームに加え、TSMCのR&D部門を支援する専門の法務部門を設置し、法務チームがイノベーションのスピードに追随できるようにしました。
「約10年前に、R&D機能の法的ニーズを支援することに特化したR&D法務部門を実際に立ち上げました」と彼女は言います。
TSMCのイノベーションを守ることは、Fang氏の職責の一部にすぎません。同社が世界最大級のテクノロジー企業へと成長するにつれ、規制当局の監視も強まっています。「TSMCの可視性の高まりと成功に伴い、特に独占禁止の分野では監視が確実に強まっています」とFang氏は語ります。
これに対応して、同社はコンプライアンス体制を強化し、従業員が自らの法的義務を理解し、遵守できるようにするための研修に多大な投資を行ってきました。Fang氏にとって、コンプライアンスは単なる規制対応ではなく、TSMCの文化の延長なのです。
「誠実さ(Integrity)は私たちのコア・バリューのひとつです」と彼女は語ります。「誠実さの要素の一つは、関連するすべての法令・規制を遵守したいということです」
TSMCが拡大を続けるなかで、彼女は独占禁止は同社が直面する最重要級の法的リスクのひとつであり、常時の警戒と、コンプライアンスに対する先手を打った取り組みが必要だと考えています。
巨人の羅針盤
TSMCで30年以上を過ごしてきたFang氏は、同社の揺るぎない成功は特定の技術的ブレークスルーのひとつに帰せられるものではなく、創業初期から企業文化を形作ってきた原則によるものだと語ります。
「TSMCの中核となる価値観は、創業者である Morris Chang 博士が、はるか以前にTSMCの強みとなる三本柱を、技術リーダーシップ、製造卓越性、そして顧客からの信頼だと見いだしましました……これらこそが、半導体ファウンドリーとしてのTSMCの成功を支える秘訣なのです」
新興の半導体メーカーから世界最大級のテクノロジー企業の一つへと躍進するTSMCの歩みにおいて、彼女は事業の成長と歩調を合わせて法務機能を築き上げ、契約対応やコーポレート助言にとどまらず、イノベーションの支援、知的財産の保護、コンプライアンスの強化、そして課題への対応まで担う体制へと拡充してきた。
今後を見据え、Fang氏はTSMCの将来に楽観的です。「技術リーダーとして、TSMCはAIブームに乗り続け、数兆ドル規模のインフラ整備の追い風を受けて、成長を加速させていくと信じています」
AIブームがTSMCの次なる成長局面を後押しすると見込まれる一方で、 Fang氏は、同社の成功は技術リーダーシップだけに依拠し続けるわけではないと考えています。絶え間ない変化に特徴づけられるこの業界において、TSMCの価値観の一貫性と、それを守り抜く規律こそが、今後も同社を際立たせると彼女は見ているのです。























